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点子、頭を良くしてあげよう――『薔薇だって書けるよ』

 白泉社「楽園」(web増刊含む)掲載作品を中心に同人誌発表作品「晴田の犯行」、書下ろし作品1編を加えた著者初単行本。

 これがデビュー単行本か! と唸ってしまうほどに巧い。収録された短編はどれも素敵なのですが、表題作が抜群に素晴らしい。

 天真爛漫、奔放不羈の魂を持つ少女・点子と結婚した男。幸せで甘い新婚の日々、しかしあまりに浮世離れした点子に男は次第に引け目を感じるようになり、やがて彼女は悪気のないまま、とある間違いを犯し――

 点子のその笑顔は俗世と切り離された天界の住人のそれであり、彼女が求める「幸せ」は現実の細々としたルールにはとらわれない。
 例えば、『智恵子抄』。例えば、安吾の『白痴』。――点子の美しさは、そんな白痴美とも言うべき現実に毒されることのない真っ白な美しさ。二人きりの世界でそれは無上の美ではあっても、ひとたびそれが現実と接点を持てばたちまち地に落ちて泥に塗れる危ういものでもあり。
 一読したとき、これは筋少の『香菜、頭を良くしてあげよう』であろうか、とも思いました。愛する白痴少女に色々と物事を教えて、全てが終わる日の後も少女が生きていけるように――という歌。
 「頭を良くしてあげよう」という一見すると上から目線の物云いだけれども、実は、その少女と関わることで本当に救われるのは、生きていけるようになるのは少女の方ではなく、男の方ではあるまいか――そんな歌。
 でも、物語はその印象を軽々と超えて軽やかな着地を魅せてくれたのでありました。

「薔薇だって書けるよ」で、あまりに浮き世離れしすぎている点子を人前に出すのを憚る気持ちに囚われる男が、彼女を「一般的な女性」にしようと教育しようとするが、点子の魂はそれに縛られることは無く、二人の甘やかで幸せだった時間はやがて一度は崩壊します。
 しかし、そこから彼女の魂を損なう事無く、彼女の天使の笑顔を保ったままに再び愛情を回復していく様が、変に重くなく、明るく、また男の純情が可愛らしくもあり、大変に良かった、素晴らしかった、と。

 表題作の事ばかり述べてしまいましたが、収められた短編はどれもきらきらした輝きに満ちた素敵なものばかり。興味を持った方、是非ご一読を。損をしない保証をいたしますよ。

薔薇だって書けるよ

薔薇だって書けるよ―売野機子作品集薔薇だって書けるよ―売野機子作品集
(2010/03/26)
売野 機子

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テーマ : オススメ漫画
ジャンル : 本・雑誌

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